【カンタータ第37番】
信じてバプテスマを受くる者は"Wer da gläubet und getauft wird"
                                  初演:1724年5月18日
 バッハは昇天節用として4つのカンタータを作曲しましたが、これはその第1作です。他の3曲(BWV11,43,128)に比べると編成も構成も簡素ですが、音楽的には優れており、1731年に再演もされ、バッハが亡くなってずいぶん後の19世紀にも人気があったそうです。
 
<第1曲>合唱 [オーボエ・ダモーレI/II, 弦楽合奏, 通奏低音]
 モテット風の主題と、ルターのコラール「これぞ聖なる十戒なり」の早い動きの動機と、フィリップ・ニコライのコラール「暁の星はいと麗しきかな」の下降音型と、が重層的に処理された壮大な音楽です。
Wer da gläubet und getauft wird,
der wird selig werden.
信じてバプテスマを受ける者は、
救われる。
 
<第2曲>アリア(T)[独奏ヴァイオリン, 通奏低音]
 独奏ヴァイオリンの楽譜が欠損し、残念ですがバッハがどのように作曲したのかわかりません。復元譜がいくつか作成されていますので、私達は???作のものを使用します。信仰こそがイエスの愛を保証するという内容にふさわしく、内なる喜びに満ちた美しいアリアです。
Der Glaube ist das Pfand der Liebe,
Die Jesus für die Seinen hegt.
Drum hat er bloß aus Liebestriebe,
Da er ins Lebensbuch mich schriebe,
Mir dieses Kleinod beigelegt.
信仰は愛の保証
イエスが信ずる者のために抱かれる愛の印。
だからイエスはただ愛から、
生命の書に私の名を記すとき、
この宝を私に装わせて下さった。
 
<第3曲>コラール二重唱(S&A)[弦楽合奏, 通奏低音]
 フィリップ・ニコライのコラール「暁の星はいと麗しきかな」の第5節がカノン風に歌われます。感情の高まりにつれて、16分音符の連鎖が華やかに飾ってゆきます。通奏低音も、コラール旋律から導かれ協奏声部として表情豊かに参加しています。
Herr Gott Vater, mein starker Held!
Du hast mich ewig vor der Welt
In deinem Sohn geliebet.
Dein Sohn hat mich ihm selbst vertraut,
Er ist mein Schatz, ich bin sein Braut,
Sehr hoch in ihm erfreuet.
Eia! Eia!
Himmlisch Leben wird er geben mir dort oben;
Ewig soll mein Herz ihn loben.
主なる神、父、私の強い勇者よ!
あなたは私を世界が始まる前から
御子において愛して下さった。
御子はみずから私と結ばれる
彼こそ私の宝、私は彼の花嫁。
彼のうちに私の喜びは高まる。
アイア! アイア!
天国の命を彼は私に与えて下さる。
私の心は永遠に彼を誉め讃えます。
 
<第4曲>レチタティーヴォ(B)[弦楽合奏, 通奏低音]
 「我らを救うのは信仰のみ」というまじめな内容が、弦楽合奏を伴って語られます。
Ihr Sterblichen, verlanget ihr,
Mit mir
Das Antlitz Gottes anzuschauen?
So dürft ihr nicht auf gute Werke bauen;
Denn ob sich wohl ein Christ
Muß in den guten Werken üben,
Weil es der ernste Wille Gottes ist,
So macht der Glaube doch allein,
Daß wir vor Gott gerecht und selig sein.
お前たち死ぬべき者たちよ、
私と共に願うのか、
神の御顔を見ることを?
それなら善行に頼ってはならない。
確かにキリスト者ならば
善行に励まねばならぬ
それは神の真の御心なのだから。
ただ信仰だけが、私たちを神の御前で
義とし、救ってくれるのだ。
 
<第5曲>アリア(B)[オーボエ・ダモーレ, 弦楽合奏, 通奏低音]
 前曲を受け、信仰と洗礼の賛歌が歌われます。「羽ばたき」を表す音型が伴奏部を支配しています。
Der Glaube schafft der Seele Flügel,
Daß sie sich in den Himmel schwingt,
Die Taufe ist das Gnadensiegel,
Das uns den Segen Gottes bringt;
Und daher heißt ein selger Christ,
Wer gläubet und getaufet ist.
信仰は魂に翼を与える
天へと羽ばたくように。
洗礼は恵みの印、
私たちに神の祝福をもたらす。
だから幸いなキリスト者と呼ばれるのだ、
信じて洗礼を受けた者は。
 
<第6曲>コラール合唱[オーボエ・ダモーレI/II, 弦楽合奏, 通奏低音]
 世俗歌に由来する旋律が用いられています。歌詞内容を反映させながら短調と長調を行き来する微妙な和声の変化が、美しい陰影を与えています。
Den Glauben mir verleihe
An dein' Sohn Jesum Christ,
Mein Sünd mir auch verzeihe
Allhier zu dieser Frist.
Du wirst mir nicht versagen,
Was du verheißen hast,
Daß er mein Sünd tu tragen
Und lös mich von der Last.
私に信仰を与えて下さい、
あなたの御子イエス・キリストにおいて。
私の罪を赦して下さい、
今、この時ここにおいて。
あなたは拒まれることはないでしょう、
あなたが約束なさったことを、
御子が私の罪を担われ、私を重荷から
解放して下さるという約束を。
 
バッハがこのカンタータを演奏した際に朗読された、聖書(新共同訳)の該当個所を掲載しておきます。
 
<新約聖書:マルコによる福音書 第16章14節〜20節>
その後、11人が食事をしているとき、イエスが現れ、その不信仰とかたくなな心をおとがめになった。復活されたイエスを見た人々の言うことを、信じなかったからである。それから、イエスは言われた。「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい。信じて洗礼を受ける者は救われるが、信じない者は滅びの宣告を受ける。信じる者には次のようなしるしが伴う。彼らはわたしの名によって悪霊を追い出し、新しい言葉を語る。手で蛇をつかみ、また、毒を飲んでも決して害を受けず、病人に手を置けば直る。」
主イエスは、弟子たちに話した後、天に上げられ、神の右の座に着かれた。一方、弟子たちは出かけて行って、至るところで宣教した。主は彼らと共に働き、彼らの語る言葉が真実であることを、それに伴うしるしによってはっきりとお示しになった。
 
<書簡使徒言行録 第1章1節〜11節>
テオフィロさま、わたしは先に第一巻を著して、イエスが行い、また教え始めてから、お選びになった使徒たちに聖霊を通して指図を与え、天に上げられた日までのすべてのことについて書き記しました。
イエスは苦難を受けた後、御自分が生きていることを、数多くの証拠をもって使徒たちに示し、40日にわたって彼らに現れ、神の国について話された。そして、彼らと食事を共にしていたとき、こう命じられた。「エルサレムを離れず、前にわたしから聞いた、父の約束されたものを待ちなさい。ヨハネは水で洗礼を授けたが、あなたがたは間もなく聖霊による洗礼を授けられるからである。」
さて、使徒たちは集まって、「主よ、イスラエルのために国を建て直してくださるのは、この時ですか」と尋ねた。イエスは言われた。「父が御自分の権威をもってお定めになった時や時期は、あなたがたの知るところではない。あなたがたの上に聖霊が降ると、あなたがたは力を受ける。そして、エルサレムばかりでなく、ユダヤとサマリアの全土で、また、地の果てに至るまで、わたしの証人となる。」こう話し終わると、イエスは彼らが見ているうちに天に上げられたが、雲に覆われて彼らの目から見えなくなった。イエスが離れ去って行かれるとき、彼らは天を見つめていた。すると、白い服を着た二人の人がそばに立って、言った。「ガリラヤの人たち、なぜ天を見上げて立っているのか。あなたがたから離れて天に上げられたイエスは、天に行かれるのをあなたがたが見たのと同じ有様で、またおいでになる。」